快斗は今、久しぶりに米花町へ来ている。 そしてそこで、あるものを見つけた。 「よっ!新一。」 「うわっ!お、快斗?…」 それは工藤新一だった。 新一とは、青子に無理やり連れて行かれた帝丹高校の文化祭で出会い、親友となって今に至る。 「久しぶり!元気してた?」 「あぁ!毎日のように死体とデートさ。」 新一は、最近高校生探偵として有名になっていた。 そのためか、最近メールを送っても返って来ることは少ない。 「ぅえ―――…嫌味かあ?」 「たまには生きてる人間からデートに誘われて―よ。」 「ハハハ…お前もか。オレは死んでるやつからは誘われたこたー無いけどな。 はあ―…オレらモテる方なのになぁ。」 「オレには蘭が、快斗には青子ちゃんがいるからだろ?」 「そっ、いっつもオレらから断るんだよなぁー青子からは誘いが、ねぇ…」 「オレんとこもたまにだ…」 「「はあ〜〜〜〜………」」 2人は、想う彼女の鈍感さに、ついため息を漏らした。 彼らもまた、鈍感ではあるのだが。 「あ!!やべっ明日期末のテストだった!」 新一は立て続けに事件が起こったので何も勉強していない。 「え?新一んとこもか?ま、オレは余裕!なんてったってIQ400だ・か・ら?」 快斗は嫌味たらしく言った。おそらくさっきのお返しだろう。 「んにゃろ…オレだってなあ! 『東の高校生探偵』とか、『日本警察の救世主』って言われて!一応成績良いんだぞ!…音楽以外は…」 「へぇ。新一って音楽ダメなんだぁ。」 快斗はおもちゃを手に入れた子供のように笑った。 「ぁ…」 新一はしまったという顔をしている。 「イイコト聞いちゃったなあ♪」 「…そう言うお前は魚が苦手らしいじゃねーか?…」 新一はまけじと言い放った。快斗は驚いているようだ。 「…!!そ、それを何処で?…まさか青子のやつ…」 「さーなー。じゃ!オレかえるわ!」 「あ、おい!待てよ新一っ!」 「じゃな…快」 そのとき、新一の携帯が鳴った。 着信音は、「START」だった。 「ハイ工藤です。あ、警部。こんにちは。……え?、いいですよ。えっと…1時間くらいで着くと思います。ハイ。…ぇ?快斗?……そうですか…わかりました。ではすぐ向かいます。」 「誰?目暮警部?」 「中森警部。」 新一はすっぱりといった。 「え?おじさんから?何で新一に?」 快斗は昔からよく青子と遊んでいたので、中森警部のことを、「おじさん」と呼んでいる。 「怪盗キッドって、知ってるか?」 「まぁ。聞いたことはあるけど?」 怪盗キッドとは、8年前を境にぱったりと姿を消した神出鬼没な怪盗である。 「そいつのことで、快斗と一緒に来てくれってさ!」 「は?なんでオレも?」 「なんかやつから、1ヶ月位後の犯行予告状が届いたんだってさ。 それも8年ぶりにな!で、オレに解いてほしいんだってよ。」 「だからなんでオレまで?」 「それは、今日快斗のおばさん、急に旅行行ったらしくて、晩御飯青子ちゃんちで食べさせるらしいんだってさ。」 「は?何考えてんだ?母さん…急に旅行だなんて…んなこた一言も聞いて…」 「ま、そーゆーコトだから、青子ちゃんちまで案内しやがれ!」 新一は快斗の背中を思いっきり押した。 油断していた快斗は驚いて転んでしまった。 「はァ?新一も青子んち行くのかよ?湊署じゃなくて?」 転んでピリピリ痛い膝を抱えながら快斗は新一をじろっと睨んだ。 「オ、オレも晩御飯呼ばれてんだよ。『祝怪盗キッド復活』だってさ。」 「ふーん。おじさんも何考えてんだか…ぃてて…」 「ほら!さっさといこーぉぜっ!」 「わぁーったよ…っつうか新一、一言くらい謝れよ。」 「ぁん?うっせーなァ…早く行くぞ!」 「おいっ!ちょっと待て!」 妙に元気な新一と足を半分引きずりながら歩いている快斗は、青子の家へ向かっていった。 新一と快斗が言い争いながらも青子の家につくと、中森警部はもう帰宅していた。 どうやら問題の予告状はすぐに見ることが出来るらしい。 新一は鼻歌混じりに警部のいるリビングへと入っていった。 「やあ工藤君。よく来てくれたね。」 中森警部は相当酔っているようだ。足元にビ−ルやウイスキーのビンが散乱している。 「け、警部…?ちょっと飲みすぎじゃないですか?」 新一は一応注意をした。この手の酔っ払いは、言っても意味がない事は分かっていたが。 「何を言っとるんだ!あの、怪盗キッドの復活が、飲まずにいられるものか〜」 新一はやっぱり…という顔をした。 そこへ、青子が台所からかけ寄ってきた。 「ちょっと、お父さん!もう。工藤君、ごめんね?せっかく来てくれたのにお父さんこんなんで…」 「いや、い、いいよ。蘭のお父さんで慣れてるから…」 とは言っても、少し新一は引いていた。 「あ、青子…予告状は?新一はそれが目当てで来てんだから、見せてやれよ。」 今まで黙っていた快斗も、少し顔を青くしながら言った。 「ぁ、うん。今持ってくるね。」 暫らくして青子が持ってきた予告状は、真っ白な封筒に包まれていた。 それを開封すると、上質な紙が1枚入っていてワープロか何かで書いたような文字でそれは書いてあった。 大地の女神が争いの神を愛の女神に変える満月の夜 我黒き者達より復活し月の瞳を戴きに参上する 怪盗キッド 「ったく…訳わかんね−ぜ…この暗号。新一わかったか?」 快斗はどう見てもわからなかったようだ。 新一は何かわかったのかその紙を見ながらぶつぶつと呟いている。 青子は中森警部が飲みすぎてぐっすり寝ているので部屋を片付けている。 「これが……で、大地が、で、…ぁ―…違うな。それだと…」 「ちぇっ。新一のやつ集中して周りの音が耳に入ってね−や。」 シカトされた事に腹を立てたのか、快斗はその辺にあった棚を蹴り飛ばした。 すると、それは本棚であったらしく、本が数冊落ちてきた。 「ってえーっ!」 そのうちの1冊が、快斗の足を直撃した。 「ひ、ひでぇ…英和辞書が足の上に…」 快斗は今度はじんじんし始めた足を摩りながら、英和辞書を拾った。 何気なく開いていたページに、快斗はある物を見つけた。 「ん?あ…これって…まさか…」 快斗は何かに気づき、さらに英和辞書を捲った。 「なるほどね……」 快斗は本棚から落ちた他の本を元に戻した。 そして英和辞書を机の上において、その場を後にした… その開かれたページには、ローマ神話のコラムが小さく載っていた…… 快斗は新一に真相を伝えるべく、声をかけようとした。 新一は、まだ何か考えていて、迂闊に声をかけると怒られそうだった。 快斗が声をかけるのを躊躇っていると、新一は何かに気づいたらしく、犯人がわかったときのような口の端を上げた笑い方をしていた。 「オレが話さなくても、新一はわかったみて−だな。」 快斗は新一の推理ショーを聞くほうにまわることにした。 数分後、青子が警部を起こし、新一の推理ショーが始まった。 「まず…『大地の女神』。コレは、ローマ神話に出てくる、マイアのこと! マイアは、大地と成長の女神なんだ。で、5月…つまり“May”の由来だと言われている。」 「ほぉ〜〜。じゃあ予告は5月なんだな?」 すっかり酔いが覚めた中森警部は感心している。 「そして、『争いの神』と『愛の女神』は、北欧神話に登場する『thor』と『frigg』のこと『thor』は、戦争、農業、雷の神で、ローマ神話の王『jupiter』に通じてて、木星という意味を持っているんだ。で、『frigg』は、これまたローマ神話で、愛の女神『Venus』にあたって、金星を意味する… すなわち、この予告状の『争いの神が愛の女神に変わる満月の夜』ということは!木曜日から日が変わったばかりの金曜日の夜!それも5月の満月のね…」 新一は探偵口調で謎を解明していく。 「新一。簡単に言うと、5月の満月の金曜日の真夜中…ってコトなんだな?」 大体わかったのと同じだという事で、快斗は少し自分に対して凄いと思った。 「そう。多分、日が変わった直後。つまり午前零時に現れるはずだ。」 「よぉー―――――ぉし!ありがとう工藤君。」 「いえ。オレは謎解きが大好きですから。こちらこそありがとうございました。」 「じゃ!暗号も解けたことだし!食べよ!!」 青子がまだ何も口にしていない新一と快斗の為に、新しく作り直した料理を食卓に並べた。 「そうだな。食べようぜ!」 「快斗のだぁーい好きなお魚もあるからねぇvv遠慮しないで食べてねv」 「…ぉ、鬼…」 快斗は目の前に出された魚料理に絶句した。 「…快斗?何か言った?」 「いぇっ!別になんでもありま…せん…」 快斗は顔が真っ青になっている。 「ねぇ。そういえばさあ、『黒き者達より復活し』ってどーゆうことだろ…」 青子はなにかが引っかかったらしい。 「暗号には関係無いだろ…」 快斗は暗号より食べ物に目が行っているらしく、ろくに聞いていない。 「………ま、いいや。あーっ!快斗魚残しちゃダメだってば!」 「うっせーな…魚なんてオレが食べるようなもんじゃねえんだよっ!」 快斗はマジックで魚をどこかに消してしまった。 「快斗ぉ〜!食べ物粗末にしちゃダメじゃないっ!」 「そして、俺のところにさりげなく置いていくとは、どうゆう神経してんだよ。」 消えた魚は、どうやら新一の皿に現れたらしい。 その魚を新一は箸でつまんでいた。 「し、新一君も……食べ物はねぇ、そんな扱いしたらダメなの―っ!」 青子は怒りのオーラを纏っていた。 「「ご、ごめんなさいっ!!!」」 快斗も新一もそれに気づいたらしく、その後は大人しく食べていたとか… 快斗が魚を残したのは言うまでもないと思う。 …そして月日は経ち、快斗達は2年生へと進級した。 「怪盗キッドだぁー?」 「やだ!快斗ったら忘れたの?」 進級すると、二人はまた同じクラスだった。 そして今日も一緒に登校していた。 「…あぁ、あの暗号?」 あの暗号を解いた日から、もう2ヶ月が過ぎようとしている。 快斗は今日青子に言われるまで、すっかりその事を忘れていた。 「そう!10日後が、あの暗号に書いてあった、5月の金曜日で満月の日… 8年前に姿を消した怪盗キッドが、再び月下に現れる日…なんだって。」 おそらくニュースや警部の言葉をそのまま引用したらしい言葉に、快斗は何かを感じた。 それを快斗は、「キッドより快斗はマジックが下手」と解釈したらしい。 「ケッ、オレはキッドよりマジックが下手だって言いてーのかよ?」 「当たり前じゃない!キッドは、現れてから消えるまでの10年間!誰にもつかまらなかったのよ?そんな悪党に、快斗が勝てるわけ…」 そこまで言ってから、快斗がなにかを呟いているのに気づく。 「ねーか…」 「え?」 「とっ捕まえてやろーじゃねーか!!その怪盗キッドをよぉ!!」 「ちょっと!それこそ無理に決まってるじゃない! お父さんだって、手をやいてるのに、快斗が出来るわけ…」 「あるさ。おっと、そうと決まったら、オレ、早退すっから。じゃな。」 「あ、快斗!」 快斗はポン!という音を立てて煙幕をはった。 青子が煙幕がはれたあとをみたときには、もう快斗の姿はどこにもなかった。 「も〜〜!登校前から早退するなんて、どーいう頭してんのかなあ―… …………バ快斗。今度青子の家来たらご飯魚料理づくしにしちゃうんだから!!覚悟しなさいよ!」 一方、家にUターンした快斗は… 「8年前っつーと…親父が死んだ年じゃねーか。」 怪盗キッドの特番を見ながら、今は亡き父親を思い出していた。 さっきの青子との会話が頭に浮かんでいる。 「ケッ!勝手なこと言いやがって…青子のヤツ…」 快斗は立ち上がり、部屋に飾ってあるパネルの前に立つ。 「…オレのかなわないマジシャンは…世界でただ1人……」 パネルに写っているのは、30代後半くらいの1人のマジシャン。 「黒羽盗一………オレの親父だけ・・・」 快斗は、青子と一緒に行った盗一のマジックショーを思い出していた。 「快斗…ポーカーフェイスって知ってるか?」 親父はまだ幼かったオレにそう聞いた。 「ぽぉかぁふぇいすぅ?」 そのころのオレは、ポーカーフェイスを知らなくて、ごくごく普通の子供だった。感情を素直に表に出す、普通の子供… 「ポーカーはたとえ、いいカードが来ても…悪いカードが来ても、顔にだしちゃいけない…」 「へ―――っ!」 親父には、わかっていたんだろうか…あんな日が、いつか来ることを… 「マジックも同じだ…手品に失敗はつきもの……だが…けっして客に気付かせてはいけない… 快斗…いかなるときにも……ポーカーフェイスを忘れるな!!!」 「親父…」 快斗はパネルに手をかけた。 ガコッ 「へっ?」 快斗が手をかけたパネルは、何故か開いた。 当然そんな事考えてもいなかった快斗はそのまま壁の向こう側へと消える。 パネルは快斗を壁の向こうへ送った後も回転し続け、数秒後やっと止まったときには別のパネルがそこにあった。 それは盗一であったが、今までの舞台でマジックショーをやっていた盗一ではなかった… 闇の舞台に淡く光る、月下の魔術師とさえも謡われた気障な泥棒として彼はそこに立っていた。 「…な、何なんだ、ここは…?」 快斗が起きあがると、そこはいろいろな物が置いてあった。 どうやら盗一のマジック道具置き場であるらしい。 『久しぶりだな…快斗…』 突然うしろから今は亡き父親の声がした。 「親父の声!?」 快斗が驚いて声のしたほうをみると、一台のラジカセが置いてあった。 盗一の声は、そこからテープで流しているようだ。 『私の本当の正体を………私は……怪……キ……なの……』 音の悪いテープを、プレーヤーから出す。 「うわ―…テープがわかめになってる!!…8年も経ってっからなぁ…」 快斗が修復を試みようとしたそのとき、後ろで何かが落ちる音がした。 「なんだ?…こ、コレは…マントとシルクハット!?―――…まるで…コレは…」 (親父は一体…?ヤツに会えばわかるかもしれないな…) 「あと10日…か……」 快斗はまたパネルを通り、部屋に戻ってカレンダーを見、そしてパネルを見た。 パネルは快斗が通ったせいで元のマジックショーのパネルに戻っていた。 (あのパネルは8年経つと開くようになってたんだ…なるほど…黒羽盗一、最後のマジックってワケ…か。) 快斗はフッと唇の端に笑みをこぼした。 「ならば…最後のマジックを解いてやるぜ!!…親父よォ…」 …――10日後――… 「快斗ぉ〜、どーしたの?最近元気無いよ?あ、もしかして怪盗キッドに怖気ついたとか?」 快斗と青子は一緒に下校していた。 あの日から、快斗はずっと考えていた。 …もしかしたら、盗一がキッドだったんじゃないかと。 あのパネルを調べてみたら、もう1枚のパネルを見つけた。 でも快斗は怪盗キッドの写真を見たことが無いし、知っているのはコスチュームがいつも白いシルクハットにマントを着ていたということだけ。 あの写真が盗一であることは確実だが、だからと言ってあれが怪盗キッドだと言う確信は無い。 「んなわきゃ無いだろ?ちょっと疲れてるだけだよ。」 快斗はそう答えたが、内心は今日キッドに会う事に少し嫌な感じがしていた。 「はぁ…新一にでも相談すりゃよかった…」 そんな事出来るはずは無いと思いながらも、つい口に出す。 「何か悩んでるの?なら、この青子様に言ってごらんなさい?」 「ケッ、お前みて―なお子様に、オレの悩みなんて理解できねーよ…」 「ひっどーぃ!!もう!快斗なんか知らない!勝手に悩んでればいいのよ!!」 (ぁ…また青子を怒らせちまった…でもコレは青子に言うわけにはいかねーんだよ……… ま、今晩になれば解決するだろ…) 青子はさっさと歩いていってしまった。きっと怒っているのだろう。 (ホントに…親父は一体何者だったんだ?…でも今のキッドは何で8年も経ってから…? 親父…わかんねぇよ…オレ……) 快斗は1人、我が家へと足を進めた… 前を歩く、幼馴染の背中を眺めながら。 ―――予告1時間前――― 「いいかぁ?怪盗キッドはマントにシルクハットだ!!よぉ〜く覚えとけよ!!!」 中森警部の声が予告前の現場に広がる…。 「久しぶりに血が騒ぐぜ!!フフフ…わっはっはっはっはぁ!!」 パチン スポッ パコッ 快斗はマント、シルクハット、モノクルをつけた。 鏡に映るその姿は、すでに快斗のものではなかった… 「そう…その華麗な手口はまるでマジック…神出鬼没で大胆不敵な怪盗紳士… 闇に光るその白き衣を見たものはこう叫ぶ…怪盗キッド、と… まぁ、怪盗キッドは探偵じゃぁないが…今夜は自らの謎を解き明かして見せるとしましょうか…?」 快斗は普段どんなに頑張っても出来ないような敬語と、気障な台詞に驚いた。 「恐ろしいくらい自然に出て来るんだなぁ…心の中では普通なのになぁ…」 まぁ、いっか。と思い、予告現場である小野銀行へ急ぐ。 「屋根の上飛んで歩くなんて…初めてだよな?…でもなんか…体が……覚えてる?…こんなこと生まれてから一度もやったことなんて無いんだけど…」 そうこう考えているうちに、小野銀行の屋上へ着地した。 「予告時間まであと…20分…でもこの格好してたらやベーな……」 さすがに予告前の屋上に、犯人がいるのは危険極まりない。 「―――……一応変装しとくか…」 しかし変装なんて、やったことは無い。 一応あの隠し部屋にあった変装道具らしきものは、持ってきている。 ―――……5分後 「……おかしすぎる…何故オレはこんな事が出来るんだ?」 快斗は、知らない人に変装するのは何故か嫌だったので、盗一に変装してみた。 結果は、あの変装道具を上手く使いこなして、変装は完璧だった。 あとは…声だけ…… ゴホン、と1つ咳をすると、快斗は盗一の声を思い出した。 「あー…ぁー…ぁー…――――…フッ…親父の声なんて出せるわけ…」 そう喋っていたのは、快斗の声じゃ無くて…… 「親父…!?」 快斗は、自分の才能を確信してしまった。 コレは、親父が生きていたころに植付けられたか、遺伝だと…………確信した… 「ケッ…どっちにしても親父=キッドってコトじゃねーか…」 腕時計を見ると、予告5分前だった。 快斗は何故か突然昔盗一といたある初老の人物を思い出した。 「あ〜あぁ…そっか。アイツなら…んー。何か…分かった気がする…」 そのころ、中森警部達は………… 「もうすぐ予告の時間だ!!各自、警戒体制にあたれ!!!」 (…怪盗キッド!!!何処から来るんだ?床か?天井か?窓か?) 「あと5秒、4、3、2、1…」 カウントが終わると同時に、室内の照明が落ちた。 「非常燈だ!非常燈をつけろ!!」 中森警部は素早く指示を出す。 パリンという音が響く。どうやらガラスが割れたらしい。 「きさま、何をしている!?」 その音に気付いた警官がケースに目を向けると、同じ制服を着た男がケースを割っていた。 その次の瞬間には、警官は変装を解き、怪盗キッドが現れた。 「か、怪盗キッド!!!」 その声に反応した警部は、次の瞬間、嬉しそうな声で叫んだ。 「そいつを追え〜〜〜!!」…と。 そのあと怪盗キッドは窓を突き破り、下へと逃げた……様に見せかけた。 本当は屋上へと逃げたのである。――…快斗がいるとも知らずに。 「うっっ!!」 屋上に上りきったキッドは、目の前に同じ格好をした人がいるのに気付き、声をあげた。 「ダミーを落として自分は上にか………古い手だぜ!!」 快斗は今ここに上ってきた怪盗キッドを見下ろした。全てわかっているとでも言っているかのように。 「き、きさま、一体!?」 「これじゃあ怪盗の名が泣くぜ!!!」 上ってきたキッドは、快斗の後ろへと飛ぶ。 「待ってたぜ怪盗キッド!!」 「お、お前、一体何者だ!?」 怪盗キッドは焦っているようだ。 何せ、目の前にいるのはここにいるはずの無い人物だと思っているのだから。 「この顔に見覚えがねーなんて言わせねーぜ?寺井ちゃん…?」 快斗はモノクルを外した。 「な…何故それを…!!も…もしや…快斗坊ちゃま?」 「御名答…黒羽快斗でーす。」 快斗はふざけた様に言う。 怪盗キッド…改め寺井幸之助は、心の底から驚いているようだ。 「何故…ここへいらっしゃったのですか?」 寺井がそう問うと、快斗はこう言った。 「…あの、隠し部屋を見つけたからさ。寺井ちゃん…1つだけ聞く。」 快斗はモノクルを再びつけ、月を背中にしながら問い返した。 「親父は……泥棒だったのか?……怪盗キッド…だったのか…?」 寺井は暫く俯いたままで、シルクハットを強くつかんでいた。 それから少しして、決心がついたのか顔をあげ、口を開いた。 快斗にだけしか聞こえない位で、小さく、 「……ハイ……」 と…。 その一言に快斗は「そうか…」とだけ言って、小さく笑った。 そして、次の瞬間。突然目の前が明るくなった。 快斗と寺井が光のほうを見ると、中森警部が見えた。 そう、警部が屋上にやっと辿り着いたのだ。 「寺井ちゃん、オレが警部達を引き付けるから、その内に逃げろ!!」 「快斗坊ちゃま!!いけません!!」 「寺井ちゃん…それは違うぜ…?今のオレは、快斗坊ちゃまなんかじゃあない… 今世を騒がせている……怪盗キッドだ!!!」 「坊ちゃま…」 ……―――そのとき快斗は、気付かぬうちに、決して開けてはならない、パンドラの箱を開けてしまった。 それが…己の苦しみの火種となるとは知らずに…――― そして数日後、快斗は父親の死の真相を知ることになる。 父親は事故で死んだのではなく…殺されたということを…… そして快斗は深く心に刻むのである。 父親を殺した奴らを。この手で。 ……いや、『怪盗キッド』の手で潰すことを……――― たとえ、それが犯罪だとわかっていても、 たとえ、幼馴染の父親が敵になるとしても。 たとえ、たとえ……自分を犠牲にしても。 怪盗キッドは、止める訳にはいかね―んだ。 あいつらを…この手で潰すまで。 黒羽快斗の秘密。 それは。 今世を騒がせている、キザなドロボウ… そう、「月下の奇術師」とも詠われた、神出鬼没で大胆不敵な怪盗紳士。 「怪盗キッド」 その正体が自分であること… それは、幼馴染にも、仲のいい探偵にも、秘密。 そう。 『Secret』 |