「そうだろ?………バ快斗。」 そう新一に言われたとき、オレは頭が真っ白になった…… ACT.4 たとえ君が… あの時計台のヤマから、約2週間。 結局あれから…新一とは会っていなかった。 ……正確には、会えなかった、と言った方がいいかもしれない。 ……新一に正体がばれた。 オレが、黒羽快斗が、怪盗キッドをやっているとバレてしまった。 なぜばれたのかと自分に問えば、思い当たる節はないとは言えない。 警視庁でぶつかった時…初めて怪盗と探偵として邂逅を果たした時…魚を見て顔色を変えた時… ……そう、時計台のヤマの最後の下見に行った、あの日だ。 あの日、時計台から出て行く2人の姿を偶然見つけて、興味本位で後をつけていった。 特に理由はないのだが、あの2人が一緒にいるとどうも気になるといったところだろうか。 それで、少し新一を試してみようと思って新一の部屋のベランダに降り立ったまではまだよかったのだが。 すっかり、快斗進入防止用と称して新一が買いこんだ熱帯魚のことを忘れていたのだ。 魚にずいぶんと弱いオレは、つい本気で書き殴ったカードを置いてきてしまった。 後悔先に立たずと、悔やみがらも帰路についたことをまだ覚えている。 「あぁ…もう、朝か…」 どうやら考え事をしている間に日が昇ってしまったようだ。 窓の外を見ると朝の眩しい光が射し込み始めていた。 快斗がベッドで寝ようと思って腰を上げたとき、机の上に置いていた携帯が鳴った。 何か嫌な予感がして、恐る恐る携帯を開くとそれは電話の着信を知らせていた。 携帯電話のディスプレイに表示された相手の名前は「小泉紅子」だった。 「何で紅子が…?しかもこんな時間に。」 時間を確認してみると今はまだ午前4時。 普通なら寝てるはずの時間だ。 「……一応出て見るか。」 快斗は内心、キッドの偽者でも出てそれを確認しに来たんじゃ…などと考えながら電話をとった。 紅子には一応否定はしているが正体がばれているのだ。 「…紅子、こんな時間に何なんだよ?」 思いっきり迷惑そうな声で快斗は電話を取った。 「黒羽君!良かったわ、起きてて。…あぁ、悪いわねこんな時間に。」 「たく…迷惑極まりねーな…で?何の用?」 快斗は紅子の様子からキッド関係では無さそうだと思いほっとしたが、それも束の間だった。 「…実は工藤君が意識不明の重態なの。今すぐ米花中央病院に来てくれないかしら?」 紅子はその言葉の重大さと裏腹に、いかにも人事です、と言ったような声だった。 「……は?冗談は止せよ…オレ、これから寝るから…」 「冗談じゃないわ!私の目の前で撃たれたんだから。」 快斗に電話を切られそうになった紅子は少し慌てたように大きな声を出した。 「…え?嘘じゃねーのか?」 「この私が、嘘をつくような人に見えるかしら?」 「見える。…新一に限ってそんなことあるわけが無い。」 「まったく…仕方が無い人ね…。米花中央病院、そこにいるから。…いいわね?」 紅子ははっきりそう言う快斗に呆れ、思いっきり電話を切った。 「あっ、おい、紅子―?」 一方的に電話を切られた快斗は何が何だかよく分からなかったが一応身支度を整えて米花中央病院へと向かった。 米花中央病院のロビーには、真夜中にもかかわらず電気がついていて、人が大勢いた。 きっと、この大勢の怪我人と新一が重傷だという事は関係があるはずだと思った快斗は、急いで新一の病室を窓口で聞き、そこへ向かった。 「新一っ!」 快斗が思いっきり病室のドアを開けると、そこには服は血だらけのままであるが平然とした紅子と、長時間泣いたためか目を真っ赤にしてベッドの横にボーっと座る蘭と、そのベッドで静かに寝息を立てて眠っている新一がいた。 「あら黒羽君。早かったわね。毛利さん、もう少しで眠りそうなんだから、少し静かにしてくれるかしら?」 「あ、悪りぃ。それより…新一が重傷って…どういう事なんだ?」 快斗は紅子の隣に座りながら聞いた。 「あれは…私が道端で占いをしていたときよ…」 紅子は静かに話し出した。 ――――――――大体…0時前くらいだったかしら… 「こんな時間に占いですか?女性1人では危ないと思いますよ?」 彼はそう言って私に話しかけてきたのよ… 「ご忠告ありがとう。でも私は…あら?貴方もしかして黒羽君…?」 「え?快斗を知ってるんですか?…あ、オレは工藤新一…探偵です。」 彼は事件帰りだったと言っていたわ… 毛利さんと行ったトロピカルランドでたまたま殺人事件があって、その事後処理があったから彼女には先に帰ってもらってたらしいの。 「もしよければ、占って差し上げましょうか?」 「…え?でも…まぁ、せっかくだからお願いするか…」 彼は少し迷惑そうにしていたけれど、占わせてくれたわ。 占ったのは『未来』………。 「あら…工藤君…貴方、悪い相が出てるわ…」 「え?マジ?」 「えぇ…どうやら近々、厄介な事件に巻き込まれるみたいね。」 「事件、か…。それなら大丈夫だ!」 彼は結果が出るなり上機嫌になったわ。 私は気になったから理由を聞いてみたの。 「え?なんで悪い相が出たのに嬉しそうかって?…そりゃぁ、オレが探偵だから、かな?」 「探偵…だから…?」 「そう!オレは、難事件があればある程わくわくする…そういう性格だからさ!」 「まったく…呆れるわね…誰かさんそっくりで…あ、これは気にしないでくれる?」 その後、彼はそろそろ帰ると言って私に背を向けたの。 そうしたら…いきなり…後ろから爆音がして… やっと爆音が止んで、伏せていた体を起こして見たら、そこは一面血の海だった。 ロビーにいたでしょう?大勢の怪我人が…あの人達はその被害者よ。 私は赤魔術でバリアーを張っていたから、近くにいた工藤君も無事に助かったのよ。 その時はね。 少ししてから、いきなり背後から黒服の集団が出てきたわ… 私と工藤君は、唯一無傷だったから、あの人達ものすごく驚いてた…。 「どうしてお前達は無傷なんだ…」 その集団のリーダーらしい長い銀髪の男が工藤君にそう聞いていたわ… ま、工藤君に聞いたところで、私がやったことなんだから分かるはずは無いんだけどね。 「そんなこと知るかよ。オレだって何が何だか…それよりアンタ…昼間ミステリーコースターの事件の時にいた男だな…?オレに何の用だ。」 「工藤新一…お前は余計なことをしてくれたみたいじゃねぇか…分からねぇとは言わせねぇぜ…?」 「フッ…あの拳銃密輸の事か?」 「そうだ…まだサツには言ってねぇみたいだから、わざわざ口封じに来てやったんだよ…」 「ちっ…やっぱし占いなんてやってる暇無かったかな…」 私はその一部始終をしっかり聞いてたんだけど、証拠は工藤君が持っているみたいだったから、私の方はただ抑えつけられて人質として使われただけで特に危害は与えられなかったわ… せっかく私に傷をつけたら、一生呪ってあげようかと楽しみにしていたのにね… 「さぁ、大人しく証拠のカメラをよこせ…そうすれば命だけは助けてやるよ…渡さなければ、どうなるか…分かっているだろうな…」 そう言ってその人は私の頭に拳銃をつきつけた…。 工藤君に話しておくべきだったかしらね。私が赤魔術を使えるって… 「やめろっ!…その人は、何も関係ねぇだろうが…」 「なら大人しく渡すんだな…」 「わ、分かったよ…渡せばいいんだろっ…」 そうして、工藤君はその、拳銃密輸の証拠らしい使い捨てカメラを銀髪の人に渡したのよ… 悪い奴らなんて…どっちにしても殺されるとは考えなかったのかしらね…工藤君は。 銀髪の男は、カメラを壊すと、工藤君に背を向けてその場を立ち去ったわ… その周りにいた仲間の横を通り過ぎた時、彼は小さな声でこう言った… 「やれ」 その一言で、抑えつけられていた私の目の前で、工藤君は撃たれたのよ… 撃ったのは2人…だったかしら。 どうやら腕利きのスナイパーみたいで、数発しか撃っていないのにちゃんと急所に入ってたわ… 「あばよ、名探偵…」 そう言って、黒服の集団は立ち去っていったわ。 私には何もせずにね。 でも、それが彼らにとって誤算だったわね。 私は何回も言うけど、赤魔術の使い手よ? 一度死んだみたいだけど、何とか蘇生させることだけは出来たわ… これで、私の素性がばれていればきっと彼らのブラックリストに入ってそうだけど… ちょっとつてがあるから、その点は大丈夫よ。 …その後警察が調べたところによると、どうやらはじめの爆音は小型の爆弾だったらしいわ。 毛利さんが言うには、工藤君はトロピカルランドから帰る途中、黒服の男の1人が怪しい行動をとっているのを見かけて、それが気になってあとをつけたらしいのよ。 きっとそこで拳銃密輸をやっていたのを見て、警視庁へ行く途中だったんでしょうね。 私と会ったのは。 「―――とまあ、こんな感じかしら?何か他に聞きたいことは?」 紅子が話し終わって、快斗を見ると、快斗は思いっきり呆れていた。 もちろん紅子に対して。 「もう…いい。よーく分かったよ。」 「それで、明日から工藤君には護衛が付くんですって。工藤新一が生きているとあの人達にばれたら、また命を狙われる可能性があるかららしいわ。」 「護衛…って、警察が?」 「当たり前でしょう?おそらく捜査1課の刑事さんね…さっきまでここに居た…確か…木さんと佐藤さん…だったかしら。」 「くそ…せめて黒服のやつらが何者か判れば…こっちだって…」 「そうね…こういう時こそ、貴方の出番なんじゃなくて?」 紅子はそういって微笑み、快斗に1枚の写真を渡した。 「私は、ただで捕まってあげるようなお人よしの女じゃないわよ?」 「……!!」 そこには、快斗が…キッドが敵視しているあの男が写っていた。 捕まっている時にこっそり撮ったらしい。 「スネイク……新一まで…あの組織に命を狙われてるっていうのかよ…っ」 グシャ、と快斗はその写真を握り潰した。 「この後どうするかは、貴方次第ね…黒羽君?いえ…怪盗キッドさん?」 「フッ…望むところだ。黒羽快斗としても…怪盗キッドとしても…新一を殺させやしねぇ…」 「あら?今日は否定しないのね…」 「うるせー。このことを知ったからには、オメーにも協力してもらうから、そのつもりでいろよ?」 「そうね…考えておくわ。黒羽君。」 「…サンキュ。」 新一が目覚めたと連絡が入ったのは、それから1週間が経った後の事だった。 「新一っ!」 快斗は1週間前と同じドアの空け方をして病室に入った。 唯一違うことは、そこに新一の両親とお隣さんと護衛の刑事がいたことだろうか。 いや。もう1人…… 「快斗兄ちゃん!…遅いよ!」 新一の両親と共にロスから帰ってきた新一の弟、コナンだ。 詳しい理由は知らないが別性で、江戸川コナンと名乗っている。 ちなみにコナンの存在を快斗が知ったのはつい2日ほど前だ。 新一が重傷と聞き、急いで仕事を片付けて帰ってきた優作達と一緒にこの6歳ほどの少年は日本に来たらしい。 今まで新一に弟がいるなんて、そんなこと快斗は一言も聞いた覚えはなかった。 蘭に聞いてみても、そんなこと全然知らなかった、と言っていた。 全く、謎の多いガキだ… そう、快斗は思っている。 「優作さん、新一は…?」 優作にそうたずねると、少し苦笑いをしてからベッドの方を目だけで見た。 ちょうど、この病室は入り口から少し入らないとベッドの方は見えない構造になっていて、快斗が立っていた位置から、ちょうどベッドは死角にあったので快斗はまだ新一の姿を見ていない。 快斗が数歩前に歩き、ベッドの方を見ると…… 「新一…?」 新一は、昨日快斗が見舞いに来た時と同じように、静かに眠ったままだった。 「つい…5分くらい前にね、また眠ってしまったんだ。」 「だから遅いよって、言ったでしょ?」 「そうですか…でも、良かった。新一、元気でしたか?」 快斗が再び優作にたずねると、病室にいた全員が静かになった。 「それが大丈夫じゃねぇんだなー…………黒羽。」 沈黙を破ったのは…… 「さ、榊佳嗣っ!?…て事は、まさか新一は…」 「そ。ちなみに……回復の見込みは無しときたぜ。」 榊佳嗣…と呼ばれた男だった。ちなみに年は25歳で独身。 病院勤務は20のときからという超エリートの精神科医だ。 彼が受け持つのはある場合の患者のみ…… そう、「記憶喪失」と診断された人々だけ―――…… |